名作ハーレムラブコメの優れた設定の構造

1.ラブコメの魅力とは?

ここでラブコメの面白さはどこにあるんでしょうか?

 

①魅力的なヒロイン

これは一番の前提です。魅力的な異性に心惹かれる、それを実現してくれるのがラブコメです。当然ヒロインは魅力的でなければならない。

その魅力とは内面も外面もともに含まれます。かわいい、美しい女性が好き。当たり前です。外面を彩るのは作者のキャラデザであります。一方で昨今の社内に美少女キャラというのはありふれており、それだけで差別化にはなりません。人として尊敬できる側面、人としての魅力こそが勝負をわけます。

ただまあ、これがあまりにないヒットラブコメというのはあまりないのでこの議論は一度おいておこうと思います。

 

②誰ルートなのか

ヒロインが複数登場するハーレムものの特徴そして作品最大のテーマとして誰ルートになるかというものがあります。恋が成就する瞬間こそ最もヒロインが輝くときなのです。しかし主人公が複数とお付き合いするというのは現実的ではありませんから、最後に誰かを選ぶ、他を選ばない選択をすることになります。最終回付近でヒロインを1人選び結ばれるというのは鉄板であり、作中一番の見せ場です。

魅力的なヒロインが複数登場するハーレムものでは、それぞれにファンがおり、誰が選ばれるのか、自分の推しは選ばれるのかは常に議論の的であるといえましょう。

 

③ヒロインとの恋の進展

結ばれるシーンは一番の見せ場ですが、そう何度も描けるものではありません。恋愛は結ばれるまでが楽しいとよく言われますが、その過程のいじらしさは何度でも描くことができます。

学校行事や季節のイベントを通じて、主人公とヒロインが関係を深めていく、その中でのヒロインのふとした仕草にドキドキするのがラブコメの醍醐味であります。

 

④人間的成長

これはラブコメ特有というわけではないんですが…

恋というは人の感情が最も大きく揺れ動く場面であり、それを通じて人としての成長を描くということができます。これは主人公、ヒロイン双方です。

逆にこの要素がないと、ただヒロインがかわいいだけの、性欲にのみ訴えかける作品になってしまうといえます。性欲だったらエロ漫画を読めばいいわけで、こちらも重要な要素と言えます。

 

2.各作品の個性

2-1.五等分の花嫁

五等分の花嫁。最近劇場版が公開された大ヒットラブコメ

拙者も大好きであり、ガチ恋して全巻購入してしまったのはいい思い出です。この作品が何故ここまで魅力的なのか。その背景について考えたいと思います。

五等分の花嫁の特徴といえばなんでしょうか?やはりそれはもう、誰に聞いてもヒロインが5つ子の姉妹であることでしょう。ここで、この五つ子という要素を分解してみましょう。作中に影響を与えたポイントとしては

・ヒロイン同士の判別不能になるタイミングがあること

・ヒロイン同士に血縁という強いつながりがあること

このように分解できると考えられます。

「五等分の花嫁」では、五つ子のだれかと結婚することが当初から明言されている一方で、「五等分の花嫁」は②の誰ルート議論が最も盛り上がった作品です。圧倒的メインヒロインを用意せず、結婚するのは誰か?という謎を徹底して提示し続けました。

一方、この②ミステリー要素は実は③と矛盾する要素でもあります。誰かと恋を進めるということは誰かを選ばないことです。一人のヒロインの見せ場を集中的に用意すれば恋の進展に納得感は生まれますが②のミステリー要素は下がります。一方で、勝ちヒロインを明示しなければ、最終回付近で唐突に誰かを選ぶことになるわけで、③の自然な恋の進展は描けません。最悪の場合、主人公の不誠実さを描写してしまいます。

「五等分の花嫁」は、この矛盾に立ち向かった作品であると私は考えます。ヒロインの顔を判別不能と設定することで、様々なシーンで関係の進展が誰とあったのかをぼかしてきました。零奈の正体、鐘キス、京都の思い出などがその例です。

一方で、風太郎が一人の花嫁を選ぶ理由もしっかり設定されており、しかもそれを悟らせぬよう物語後半で風太郎のモノローグは一切登場しません。さらに五月という存在は1話で最初に登場したヒロインでありながら、恋愛戦争には最後まで参戦せず、風太郎の友であり続けました。彼女の存在が強力な攪乱となり、「五等分の花嫁」の勝ちヒロインは最後まで議論になりながら、整合性のとれる終着点を見つけることができたのです。

また、ヒロイン間は通常恋敵となります。たとえ親友であっても関係を維持するのは難しいかもしれません。しかし、「五等分の花嫁」ではヒロイン全員を家族として設定することでその後味の悪さに答えを見つけました。家族であれば、時に傷つけあっても乗り越えることができても違和感はありません。例えば一花は時折腹黒い一面を見せましたが(シスターズウォーなど)、これが後味悪くなく決着できるのは皆が家族だからです。また家族という長い時間を共有した人間関係の深さゆえに、互いの夢を応援しあう様(二乃と三玖)、過去での葛藤(四葉のリボンや五月と母など)をつなげて描くことが可能でした。④の人間的成長を描くうえで、主人公だけならともかくヒロイン全員を描くことは通常困難ですがそれを実現する優れた設定であると言えます。